ぼくの前方には堆肥を積んだ車が運悪く走っていた。
こんな経験滅多にできないが強烈な臭いに気が遠くなっていたころ、後方でビラちゃんがまた止まっているのがミラーに写った。たぶんまた故障か疲労のどちらかだろう。どうしようかと迷ったがしばらく先まで走って待つことにしよう。
30分ほど走ったところでまた道路の分岐点に来た。
しまった!彼はこの辺の地図を持っていないはずだ・・。急にビラちゃんのことが心配になり歩道にバイクを止めてこの場で待つことにした。
ウエットティッシュで顔を拭くと、排気ガスでついた汚れがべっとり。夕暮れ時になって帰りを急ぐ車の列が興味深そうにぼくを見ていく。そんなことにはお構いなしに工具を取り出し各部の増し締めをやっていると、自転車に乗ったじいさんがやってきて、ぼくをしばらくじろじろ見た後、思い切って話しかけてきた。
このじいさんは以前、どっかのバイクメーカーのエンジンの設計に携わっていたみたいで、自分の経験などを聞きもしないのにいろいろ話してくれた。一通りを話終えた後、今度はしきりに今晩自分の家に泊まっていけとしきりに誘ってきた。
こんな見ず知らずの土地で親切に誘ってくれるのはとてもうれしかったが、鳥取に向かう決心が堅かったので丁重にお断りした。
ビラちゃんがやってきたのは、じいさんと話し込んでから1時間以上たってからだった。
チェーンが伸びきってしまいチェーン調整をしていたようで、タイヤの位置はぎりぎりまで後ろになっている。じいさんが、ドライブチェーンのうんちくをビラちゃんに向かって弾丸のようにしゃべっているが、時間がないのでさっさとじいさんに別れを告げて出発した。悪いことしたかなと思ったけどしょうがないや、さよなら、じいさん。
夕闇が迫るころ、ぼくらは京都と兵庫の県境にいた。
あと鳥取まで100キロぐらいだろうか。周りの車もヘッドライトを着けつけ、それぞれの旅路を急いでいる。体調のほうは肩のあたりにちょっと痛みを感じるぐらいでとくに疲れを感じることはなかったが、ビラちゃんはこのままこの場所で寝れるぐらい疲労の色が濃くなってきていた。
県境と兵庫県を越えて鳥取までは海岸沿いに小さな山を越えながら走る道が続く。
山を一つ越える毎にビラちゃんの平均速度が落ちていく。
どんどん遠くに離れていくビラちゃんに心の中で問いかけをしながら走る。
確かに誰でも一日に500キロ近く走れば疲れが出てくるよ。
ただねビラちゃん、ここからはもっと先に行きたい、走っていたいとかいう精神的な意欲で人は走れると思うんだ。
その疲れた体に宿る精神について考えてみなよ。
君が乗るのは何のためかは知らないけど、昼間に感じる風とか?景色とか?そんなんじゃなくて本当の俺たちの旅は夜これからが本番だと思わない?
たとえ疲れ切っていても、走っていることに、今旅をしていることに自分が熱烈に興奮できるなら、道のほうから君を自然に運んでくれると思うんだ。こんなくだらないことに夢中のぼくはさっきから自分の旅にものすごく興奮しているよ。今はものすごくまっただ中だってことにね!!
再び海岸沿いの町に出る。
ビラちゃんがガソリンスタンドに寄って、店員の人と話している。遠くで聞いているとショップの人にアルバイトをさせてくれと頼んでいるように聞こえたので笑ってしまった。
鳥取は目前でぼくは相変わらずスピードを緩めずに真っ暗闇の街道を抜けていく。ビラちゃんが峠を越えるスピードがとうとう20キロぐらいになった。
だがなんとか最後の気力を振り絞って持ちこたえた。ぼくらは午後9時頃鳥取県に入り目的地に到達した。
走行距離は500キロを超えてビラちゃんは初の500キロ走行を成し遂げた。
まず鳥取砂丘のほうへ向かい目的のキャンプ地に寄ったが、ぜんぜん大したことがなかったのでがっかり。とりあえず風呂に入って食事をすることになり、鳥取市内を30分ほどうろうろして健康ランドにたどりついた。
健康ランドはきれいな外観だったので、予算に限りがあるビラちゃんはかなりビビリながら建物に入っていったが、結局700円だったので彼も安心して入ることに。お互い何日も風呂に入ってなかったので生き返る気持ちでしばらく至福の時を過ごし、ぼくらはまた鳥取砂丘に戻っていった。
砂丘に着いて、大きめの駐車場でテントを張る。
すでに何台かのバイクがテントを張って寝ている。ぼくが買ったカレーとビールで遅い食事をして、その場にぼくのテントを張って二人で入って寝た。
テントの中は暑く、二人とも風呂に入ったはいいが、着ているものが一緒なのでかなり不快。夜中に地元の車が来て騒いでいたので何度も起きる羽目になりながら夜を過ごした。
朝4:00にビラちゃんが、もぞもぞとテントから出ていった。ぼくもしばらくしてそれに続いた。
砂丘には月が昇っている。
まわりはまだ真っ暗だったが、昨晩から近くにマットだけをしいて爆睡していたGPZの人と話しをしながら夜明けを待つ。しばらくすると1500のバルカンのおじさんなどがやってきてお互いのバイクや旅の話などで盛り上がる。
おじさんたちは北九州から夜通し走ってきたようでこれから寝るらしい。時期ということもあるが、無数のバイクが昼夜走り回っていることが無性にうれしい。同じ夏の日にいろんな人のいろんな旅があって、ちょっとだけ出会って話して別れていく。みんなにさよならをいって、すぐ近くの砂丘を見に行ってしばらくぼーっとしていた。
やがて夜明けが来て、ぼくらも出発した。
朝日を背に片側2車線の鳥取市内を走っていると、北海道のナンバーのCBとXJRがピースをしながら抜いていった。彼らに負けないようにスピードを上げる。軽自動車に5人も乗った大学生らしき男女がこっちを見ている。彼らはこれから家に帰るのだろう。ぼくは見晴らしのいい展望台に寄ったりしながらビラちゃんとは離れてマイペースに進んでいった。
9号線の信号は朝になっても黄色が点滅していた。
早朝なのでいいペースで走り続ける。二人が米子についたのが朝の8時頃。
目に付いたコンビニで朝食をすませ、記念写真を撮ってからビラちゃんとがっちり握手。いろいろあったけど楽しかったよビラちゃん。ぼくはここから自分の旅を急ぐことにしよう。
さよならビラちゃん。